「水害について、身近で発生するリスクがどのくらいあると感じていますか」という設問に、最も当てはまる項目を選んでもらったところ、半数近くの人が「ややリスクを感じている」と回答。「非常にリスクを感じている」と回答した人と合わせると、6割以上の人が水害へのリスクを感じていることが分かりました(図1)。
居住形態別に見ると、集合住宅の人ではおよそ7割、戸建住宅では5割以上の人が水害のリスクを感じていました(図2)。
しかし、「水害に対する備えをしていますか」と尋ねたところ、「いいえ」と回答した人が8割以上でした(図3)。
居住形態別に見ても、集合住宅の人、戸建住宅の人ともに8割以上が水害への備えをしていないことが明らかになりました(図4)。
「水害に対する備えをしていない」と回答した735人に、備えていない理由を尋ねたところ、最も多かったのは半数以上の人が回答した「何をすればいいのか分からない」でした。続いて多かったのは「住んでいる地域の災害が少ない」、「被災する実感がない」でした (図5)。
居住形態別に見ても、集合住宅の人、戸建住宅の人ともに「何をすればいいのか分からない」が最多となりました(図6)。
監修者のコメント
これだけ水害があちこちで起きて、悲惨な被災状況をニュースで見ていても「水害に対する防災行動を起こさない」人が多いということが如実になったと思われます。これは正常性バイアスと言われる災害における特徴的な心理状況です。「自分だけは大丈夫、今まで起きたことがないから大丈夫」と思ってしまう心理のことです。一部には自分ごととして捉え、準備をしようとする行動も見受けられます。しかし、実際のところは何をしたらいいのか分からない人も多いようです。ものを買い込むことで大丈夫と思っている人も意外に多いのですが、それらを使いこなせるようにしておくことも重要です。
続いて、「水害に対する備えをしている」と回答した134人に、「いつ頃から水害に対する備えを意識するようになりましたか」と尋ねたところ、「2年前から」と回答した人が最も多く、次に「5年以上前から」でした。6割以上の人が5年以内と比較的最近になって水害に対する備えを意識し始めたことが分かりました (図7)。
さらに、水害に備えるようになったきっかけを尋ねたところ、「豪雨の増加」が8割以上と最も多い結果となりました。また、「洪水・氾濫の増加」「台風の増加」と答えた人も5割以上いました (図8)。
自宅で被災した場合の備えとしてどんなことをしているかと尋ねたところ、9割近くの人が「食料・水の備蓄」と回答。また、6割以上の人が「懐中電灯の購入」、「ハザードマップの確認」「防災グッズ・非常用持出袋の準備」「電池・モバイルバッテリーの購入」を挙げました (図9)。
さらに、「食料・水の備蓄」と回答した116人に、「何日分の水や食料を備蓄していますか」と尋ねたところ、最も多かったのは「3日分以上~5日分未満」で、4割以上の人が回答。続いて多かったのはおよそ36%の人が回答した「3日分未満」でした。1週間分以上を備蓄している人は6%で9割以上の人が1週間分未満でした (図10)。
監修者のコメント
水害における備蓄に関しては、在宅なのかそれとも避難所に行くのかによっても大きく変わります。しかし、一番大事な事はその人にとって命に関わるもの、例えば、薬、コンタクトや眼鏡、入れ歯や補聴器、杖などが救援物資では来ないので必ず用意しましょう。
<参考>備蓄品リスト
※東京都「備蓄ナビ」で女性20歳以上マンション一人暮らしで検索した場合のリスト。※想定は7日分。
水21ℓ、野菜ジュース7本、飲み物7本、健康飲料粉末7袋、無洗米3キロ、レトルトご飯21食、レトルト食品7つ、缶詰7缶、果物の缶詰7缶、フリーズドライ食品30食、乾麺7パック、乾物適宜、栄養補助食品7個、チーズプロテインバーなど2パック、調味料セット適宜、お菓子7パック、除菌ウェットティッシュ70枚、歯磨き用ウェットティッシュ70枚、ウェットボディタオル7枚、アルコールスプレー1本、マスク7枚、口内洗浄液630mℓ、救急箱1箱、常備薬1箱、使い捨てコンタクトレンズ1ヵ月分、生理用品30個、簡易トイレ36回分、使い捨てカイロ14個、カセットコンロ1台、カセットボンベ7本、ラップ1本、ポリ袋1箱、アルミホイル1本、トイレットペーパー4ロール、ティッシュペーパー3箱、ビニール手袋1組、軍手7組、懐中電灯1個、LEDランタン7つ、乾電池(単一~四までのセット)、手回し充電器ラジオ1台、チャッカマン1本、携帯充電器、布製ガムテープ2つ、新聞紙適宜、マルチツール1つ、給水袋1つ、ヘッドライト1つ、クーラーボックス1つ、リュックサック1つ
令和3年5月より変更となった、自治体等から発令する大雨警戒レベルの変更と、求められる行動について正しく理解しているか尋ねた※ところ、「ある程度理解している」と回答した人が5割以上で最も多かったものの、3割以上の人が「聞いたことはあるが理解はしていない」、5.6%の人が「全く知らなかった」と回答しました (図11)。
※(設問内容)令和3年5月より、自治体等から発令する大雨警戒レベルが変更となりました。警戒レベル3:「避難準備」から「高齢者等避難」に。警戒レベル4:「避難勧告」が廃止され「避難指示」に一本化。警戒レベル5:「緊急安全確保」に変更。避難は、レベル4「避難指示」のうちに終えることが求められています。上記の「警戒レベル」の変更と、求められる行動について正しく理解していますか。
さらに、「避難所に避難する際、不安なことは何ですか」という問いには、7割以上の人が「暑さ・寒さ」「トイレなどの整備状況」に加え、「感染症のリスク」を挙げ、「清潔さ」「プライバシーの確保」「眠れる環境」「物資(日用品等)不足」についても6割以上の人が不安を感じていることが分かりました (図12)。
戸建住宅に住む人に「水害で自宅が床上浸水した場合、元の生活ができる状態まで復旧するのにどのくらいの期間がかかると思いますか」という問いに答えてもらったところ、最も多かったのは「1か月以上~3か月未満」で、3か月以内に復旧すると思っている人が47.1%でした (図13)。
監修者のコメント
床上浸水の場合、まず罹災証明のための写真を撮ります。そして家の中の不用品を片付けします。大抵のものは使えないので不用品扱いとして外に出します。いらないものを出すと言う作業だけで最低2日から3日かかります。使えるものの場合は全て消毒をして乾かすため1週間程度かかります。ここまでやってからやっと復旧作業に入れます。
浸水被害に遭った場合、周囲の家も同じように浸水するケースがほとんどです。床工事をお願いしようとしても、大工さん・工務店さんの手が足りず、いつまで経っても元の生活に戻れません。早く申し込めば被災から1週間で着手し大体1週間、つまり被災から2週間で元に戻ります。床だけではなく外も被害がある場合は大体2ヶ月程度かかると言われています。
マンパワーだけではなく資材そのものが足りなくなると半年から1年かかる場合もあります。去年の九州北部7月豪雨の被災者の場合、床上浸水+壁に被害があったため元の生活に戻るために7ヶ月かかったそうです。
さらに戸建住宅に住む人に「水害対策のために家を補強するとしたらいくらまで検討しますか」と尋ねたところ、最も多かったのは「50万円以上~100万円未満」でしたが、「100万円以上」かけても良いと思っている人も、3割以上いることが分かりました(図14)。
監修者のコメント
水害対策としてかけられるお金が、思ったよりも高額ということが分りました。家という自分の生きる拠点になるものに対して、お金をかけて守ろうとする。でも、実際にはどうしたらいいのか分からないというのが現状かと思います。何に対してお金をかければいいのか、どういうことを具体的にすればいいのかを、防災のプロ、住宅のプロがアドバイスすることで形にできるのではないでしょうか。
調査手法:オンラインアンケート
調査期間:2021年7月31日(土)~8月6日(金)
調査対象:全国の男女
有効回答数:869サンプル
回答者:男性335名、女性534名(10代以下6名、20代147名、30代408名、40代162名、50代108名、60代33名、70代以上5名/戸建住宅289名、集合住宅580名/北海道47名、東北63名、関東291名、中部170名、近畿142名、中国・四国60名、九州・沖縄96名)
※構成比は小数点以下第2位を四捨五入しているため、合計しても100にならない場合があります。
今回の調査では、水害のリスクを身近に感じながらも、どんな対策をしてよいのか分からない方が多いことが明らかになりました。また、辻直美さんのコメントにもあったようにコロナ禍での自宅の復旧には想像以上に時間がかかる可能性があります。一条工務店では、震災や水災、風災など襲いくる自然災害の脅威にただ耐えるだけでなく、その後も“災害を免れたかのように暮らせる”「総合免災住宅」を実現しています。「水害」への取り組みとして、「耐水害住宅」を開発し、2020年9月より販売。2021年8月末時点の販売棟数は約1200棟となり、全国のお客様に高い関心をいただいています。
一般的な仕様の住宅において、床下・床上浸水すると考えられる箇所は複数存在します。当社はこれらを危険ポイントと定め、「浸水」「逆流」「水没」「浮力」の4つに分類。建物本体だけでなくサッシ等の開口部の水密性の向上、水の浸入・逆流を防ぐ特殊弁の採用などの対策を施しました(図中1~5)。また、外部の電気設備は、その本体や稼働に関わる部品を水没から免れる高さに設置することで、水害後も電気や給水・給湯などのライフラインを確保しています(図中6~9)。そして、浮力対策として、一定の水位に達した際に「床下注水ダクト」で水をあえて床下に入れて重りにして浮上を防ぐ「スタンダードタイプ」(図中10)、及び、浮力に逆らわずに安全に建物を水に浮かせ「係留装置」で元の位置に戻す「浮上タイプ」(図中11~12)の2つの仕様を開発しました。また、「浮上タイプ」の浮上時に、漂流物が建物の下に挟まった場合も、約半日の作業時間で撤去でき、給排水管も簡単に復旧できる方法を確立しました。
さらに、太陽光・蓄電池の搭載で電気の自給自足も可能なため、水害後、「普段通りの生活」をすぐに取り戻せるとともに、精神的・経済的負担を大幅に軽減することができます。
価格は、約35坪の新築住宅の場合、「スタンダードタイプ」がプラス約46万円、「浮上タイプ」が約77万円です。
【「耐水害住宅」と一般的な仕様の住宅を実験施設内に建築した実大実験の様子】
一般的な住宅のリビング(画像左)は浸水し、家具も流されてしまっていますが、耐水害住宅(右)は浸水することなく普段通りのリビングを保っています。
耐水害住宅の詳細はこちら
監修者のコメント
理想的な備蓄は14日分
アンケートの結果から、被災した瞬間に対しての恐怖や不安は感じられますが、避難生活に対する具体的なイメージが湧いていないことが見て取れます。それが、「何日分の備蓄を用意しているのか?」「復旧にかかる日数」の回答に現れています。今はコロナ禍の影響もあり、マンパワーが確実に少ない状況です。そこが期待できないとなると復旧にはかなり時間がかかります。そのため、今は3日ではなく理想的には14日間分は備蓄をしてほしいと思います。
辻 直美さん
国際災害レスキューナース/
一般社団法人育母塾代表理事
看護師歴30年、災害レスキューナースとして26年活躍し、被災地派遣は国内29件、海外2件。被災地での過酷な経験をもとに、“本当に使えた”防災の「自衛術」を多くの人に知ってほしいと、大学や小中学校で教えるだけでなく、一般向けの講座も行っている